もし家族が、あるいは自分が脳梗塞の後遺症で認知症になってしまったら・・・。
脳梗塞を発症した方はそうでない方に比べて、認知症になる確率が高くなると言われています。認知症の進み具合は、生活環境で大きく変わってきます。私自身が作業療法士として訪問リハビリを行っていた際も、適度な刺激がある環境で認知症の進行が緩やかな方もいれば、自分の部屋に閉じこもりになってしまい症状が急激に悪くなってしまう方もいらっしゃいました。認知症になっても、自宅は慣れた環境であるため、長く生活を継続できる方も多いです。
今回の記事では脳梗塞後の認知症に対して、自宅でできるリハビリの方法と注意してほしいポイントをお伝えしたいと思います。
認知症のリハビリの目的は?
認知症は少しずつ症状が進行していく病気です。そのためリハビリで「完治する」ことはできません。しかしリハビリを行うことで「症状の進行を遅らせる」ことはできます。認知症のリハビリの目的は、現在できていることを維持することが基本です。
また長く生活の中でリハビリを続けていくためには、無理をしすぎず楽しみながら行えることが大切です。
ご本人がリハビリへ意欲がわかない時は無理に行わず、方法を変えたり、負担にならない程度にご家族から、お声かけをされたりしていただければと思います。
自宅でできるリハビリの具体的な方法を紹介します
① 家族の思い出写真を活用する
認知症の方は少しずつ昔の記憶を忘れてしまいます。そのため思い出の写真などを目につく場所に飾ったり、家族のアルバムをご本人が過ごす場所に置いておいたりすると良い刺激になります。特にご本人が楽しんでいた趣味の写真や家族の楽しかった旅行の写真などは、見ていて明るい気分になることができます。
家族の写真アルバムなどをご本人の過ごすスペースにさりげなく置いておくと、手にとって見てくれるかもしれません。ご家族で写真のことを話題にするのも、会話しているうちにいろいろと記憶を思い出すことができるので、とても良い方法だと思います。
② 大事なことを目につくところに貼っておく
少し症状が進んだ認知症の方ですが自分の生年月日や年齢など忘れたくないことを1枚の紙に書いて、リビングに貼っている方がいました。
認知症の方は見当識(自分のいる場所や時間の感覚)が低下すると言われています。見当識が低下すると、自分の状況がわからなくなり不安になります。
カレンダーに予定を書いて見える場所に置いたり、電話の近くに家族の電話番号を貼っておいたりするなど、大事なことが目に見える場所にあると気持ちが安定する場合があります。大事なことが目にみえる場所にあると、それだけ目にする回数が増えるので忘れにくくもなります。
③ 家事で本人の役割をつくる
認知症になると、つい周りが家事や仕事を先回りして済ませてしまったり、「無理しないで、ゆっくりしていてね」と気遣われたりすることがあるのですが、認知症の方にとっては、何もすることがないというのはかえって良くありません。頭や身体を使わなくなり、「自分は何もできなくなった・・・」と落ち込み、症状を悪化させるからです。特に高齢の方は一方的にお世話をされる立場になると、家族へ迷惑をかけていると不安な気持ちになるようです。
認知症になってもこれまで行ってきた家事を止めてしまわずに、できるだけ続ける工夫をしてみましょう。コツは「できる作業を抜き出して、お願いすること」です。家事にはいろいろな作業があるため、部分的にはご本人ができることが見つかると思います。例えば洗濯物たたみや玄関の掃き掃除などは、工程がシンプルで行いやすい仕事です。
もっと作業を細く分けていけば、豆の筋とりや野菜の皮むきなどは単純作業のため行いやすいです。ちょっとしたことで構いません。家事をすることで家族の役に立てている実感が大切なことです。
④ 趣味を続けられる環境をつくる
認知症の症状として、何事にも興味を持てなくなるということがあります。意欲や関心も脳の機能と関係があるためです。趣味をやめてしまう方も多いので、続けられるようにサポートができると良いですね。
例えばカラオケが趣味の方であれば、自宅でも続けられるカラオケセットを用意する、近所の教室や同好会に誘ってみる、家族でカラオケに行ってみるといっ
た方法があります。
デイサービスなど介護サービスを利用し、カラオケといった趣味を続けるのも一つの方法です。最近のデイサービスは各事業所によって活動内容や利用者の方の雰囲気も違っていますので、事前に見学したりスタッフに相談をしておいたりすることをオススメします。
⑤ 体を動かす習慣
認知症というと記憶力など認知面の衰えを意識しがちですが、活動量が減ることによって身体の機能も低下しやすくなります。特に脳梗塞や認知症を発症される方は高齢の方が多いので、体を動かす習慣も大切にしたいものです。
自宅でできる方法としては、TVやラジオでの体操を習慣にしたり、近所の散歩をしたりする方法が手軽です。
体力が低下してしまったり、寒い季節になってから始めると億劫になったりしますので、日頃から体を動かすことを習慣にしておきたいですね。
⑥ 家族とのコミュニケーションを絶やさない
閉じこもりになりがちな認知症の方にとって、何と言っても人との交流が1番良い刺激になります。1番身近な家族との団らんの時間が、心をほっとやわらげてくれたり気分転換になったりするでしょう。
認知症になると自分に自信がなくなり、周りの人との関わりが少なくなる方も多いです。ぜひご家族からも声をかけていただいて、ちょっとしたおしゃべりや食事を一緒に楽しんでいただきたいと思います。特別なことを話さなくても、顔を合わせるだけでも十分です。
会話の中でご本人が物忘れをしたり、つじつまが合わないようなことを言われたりしても、笑いとばせるような明るい雰囲気があればご本人も話しやすくなるでしょう。
まとめ
今回は脳梗塞で認知症になった場合の、自宅でできるリハビリ方法を中心にご説明してきました。
認知症になるとご本人だけでなく、ご家族も不安なお気持ちになられると思います。ケアマネージャーなどに相談できる環境を整えておくことが大事なことですが、適度な刺激のある生活を送ることも現在の機能を維持するために大切なことですので参考にしていただければと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
mocoss ( 作業療法士 )
2007年に作業療法士免許取得。その後救急病院、リハビリテーション専門病院、行政(介護予防事業)での勤務を経て、在宅の高齢者や障害者への訪問リハビリテーションに従事する。
特に脳卒中患者の在宅復帰を多く支援してきた。ボランティアとして、片麻痺患者がセラピストの教育に携わるためのNPO法人に所属している。
趣味は旅行。