脳トレだけじゃない!生活の中でできる記憶の練習
脳卒中後の記憶障害とは
脳卒中の後遺症として記憶障害が残り、生活に支障をきたしたり今後のことについて不安に思われたりしている方は、たくさんいらっしゃるそうです。
脳卒中の後遺症のため、身体の麻痺だけでなく記憶力や注意力など精神のはたらきにも障害が起きる場合があります。
高次脳機能障害という言葉を知っていますか?
高次脳機能障害とは
- 記憶力や注意力の障害
- 失語症(言葉を話したり理解するのが難しくなる)
- 遂行機能障害(物事の手順を決めたり、実行したりするのが難しくなる)
などの障害のことを言います。
高次脳機能障害は脳卒中だけでなく、交通事故や転んで頭をぶつけた後に、後遺症として起きる場合があります。記憶障害も高次脳機能障害の中の一つです。
記憶力は、日常生活において、ありとあらゆることに関係しています。
例えば頼まれた用事を忘れずに済ませたり、誰が自宅に訪ねてきたのか覚えておくことだったり、電話で受けた伝言を忘れずに相手に伝えたりする時など、日常生活のちょっとしたことから記憶力は必要とされますよね。
記憶力の低下は病気だけでなく、年齢が原因となることもあります。
程度の差はあれ誰でも物忘れはありますので、日常生活ではメモをとるなど忘れないための工夫が必要です。
しかし忘れない工夫をするだけでなく、記憶力そのものを鍛えたいと思いますよね。そこで今回の記事では、生活の中でできる記憶障害のリハビリの具体的な方法をご紹介したいと思います。
記憶にも色々な種類がある
さてもう少し記憶の話におつきあいください。
長期記憶・短期記憶
記憶とひとくちにいっても、記憶には色々な種類があることをご存知でしたか? ひとつには、覚えている時間の長さで、記憶の種類が変わります。
数年前の出来事についての記憶は「長期記憶」と言われます。一方数時間〜数ヶ月ほど保たれる記憶は「短期記憶」と言われています。わかりやすい例では小さい頃の思い出は長期記憶であり、昨日の晩御飯のメニューを思いさせるというのは短期記憶になります。この2つは別の種類の記憶として区別されています。
短期記憶よりも長期記憶の方が、よりしっかりと頭に残っているという特徴があります。テストのために一夜づけで覚えたことはすぐ忘れてしまうのに、昔の印象的だった出来事はいつまでも忘れないといったことは、誰でも経験があるのではないでしょうか。短期記憶は繰り返し思い出すことで長期記憶となり、忘れにくくなると言われています。
展望記憶
記憶は過去のことに関係しているというイメージがありますが、未来に関係する記憶もあります。例えば「明日12時に友人と駅前で待ち合わせをしている」といった、未来の予定を覚えておくという記憶です。これは「展望記憶」と言われます。
展望記憶で大切なことは、適切なタイミングで思い出せるかどうかです。例えばゴミ出しの日に、会社に着いてからゴミを持っていくことを思い出しても間に合いませんよね(我が家ではよくあることですが・・・)この場合は自宅を出る時が、思い出すべきタイミングとなります。
視覚情報と聴覚情報からの記憶
他に目で見たものを覚えるか耳で聞いたことを覚えるかによって、記憶を分けて考える考え方もあります。なぜかというと目で見たものと耳で聞いたものを記憶する時、脳の中では記憶されるための経路が違っているからです。目で見たものはすぐに覚えられるのに、耳で聞いたことはなかなか覚えられないという方もいるでしょう。視覚情報と聴覚情報のどちらが覚えやすいかは、個人差があります。
細かい分類はまだまだたくさんありますが、記憶にもたくさんの種類があるたることが分かっていただけたのではないかと思います。
記憶障害の方も、自分の得意な記憶と苦手な記憶があったりします。違いを意識してみると、自分の得意や苦手がわかりやすくなります。苦手な記憶を練習するだけでなく、得意な記憶を伸ばすということも良いリハビリになります。
脳トレだけじゃない!生活の中で記憶のリハビリをする方法
では実際に生活の中でできる記憶障害のリハビリについて、ご紹介していきましょう。
記憶障害のリハビリというと、プリントを使った脳トレが一般的ですが、少しやり方を工夫するだけで、日常生活の中でも記憶のトレーニングをすることができます。
① 1日の予定を思いだす
1日の初めに、何も見ずに今日の予定を思いだしてみましょう。自分の1日の行動を具体的にイメージすることがポイントです。このトレーニングは未来の予定の記憶である「展望記憶」を使っています。
イメージしてみて思い出せない部分がありましたら、スケジュール帳やカレンダーを見て確認をしましょう。このトレーニングは記憶力を刺激するだけでなく、事前に予定を思い出すことで「予定を忘れてた!」といううっかりミスを減らすことにもつながります。
② いつも通る道の風景や目印を思い出す
何気なく通っている道の細かい風景や目印を、何も見ずに思い出してみましょう。どこか目的地を設定して、そこまでの道のりをイメージすると行いやすいと思います。
「あの角を曲がると右側に○○があって、その先には○○があって・・・」というように行うと「あれ?あそこはどうなってたっけ?と、いつも通る場所でも曖昧な部分があるのではないでしょうか。
道順を思い出す練習は、目で見たものの記憶を思い出す練習です。道順を思い出す中で曖昧だった部分は、また同じ道を通った時に確認してみてください。繰り返し覚えて思い出すことで、記憶の強化になります。
③ 昨日の夕食のメニューを思い出す
昨日の夕食のメニューを思い出してみましょう。
「昨日の夕食は楽勝!」という方は、その前日の夕食メニューは思い出せますか?やってみると簡単そうに思えて、これが案外難しいのです。食事は普段何気なく行っていることなので、意識しないとすぐに忘れてしまいます。夕食のメニューを思い出すことは短期記憶の強化につながります。食事は毎日の日課ですので、メニューを思い出すことは継続して行えるリハビリになると思います。楽しみながらぜひ日々の習慣にしてみてください。
①〜③のリハビリメニューを通じて大切なことがあります。
思い出せなかった部分はわからないままで終わらせずに、ぜひ答えを確認してもらいたいと思います。なぜかというと思い出せなかった場合も答えを確認することで、記憶を呼び起こすことにつながるからです。思い出せなかった場合は、事前に記載したメモを確認したりご家族に尋ねたりしてみてください。
クイズ感覚で「間違ってもいいさ」くらいの気持ちで、楽しみながら続けてもらえればと思います。
まとめ
いかがでしたか?
今回の記事では、脳卒中後の記憶障害のリハビリについて生活の中で簡単に行える方法についてご紹介してきました。「思いだす」ことを意識してみると、簡単なことでも意外と正確に覚えていないことに気づくことがあります。
いかに私たちが普段いろんなものを見たり聞いたりしているようで、あまり意識せずに生活していることを実感されるかもしれません。意識していないことは、記憶にも残りません。
日常のささいなことを思い出す練習をすることで、普段からの注意力を高めることにもつながります。注意力が高まると記憶にも残りやすくなります。
とはいえ人間は忘れる生き物でもあります。「出来なくても気にしない」くらいの気軽な感覚で、ぜひ継続してもらえたらと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
mocoss ( 作業療法士 )
2007年に作業療法士免許取得。その後救急病院、リハビリテーション専門病院、行政(介護予防事業)での勤務を経て、在宅の高齢者や障害者への訪問リハビリテーションに従事する。
特に脳卒中患者の在宅復帰を多く支援してきた。ボランティアとして、片麻痺患者がセラピストの教育に携わるためのNPO法人に所属している。
趣味は旅行。