脳卒中を発症された後、料理することを諦めてしまう方はたくさんいらっしゃいます。私はそんな患者さんにお会いする度に「もったいないなぁ・・・」と歯がゆい思いをしてきました。片麻痺になっても、工夫次第で料理をすることは十分に可能です。
私の知り合いの方には片麻痺で、同じ片麻痺の方に料理を教える料理の先生になっている方もいます。その方の右手はほとんど動かない状態ですが、いろんな工夫で料理を楽しんでいらっしゃいます。
今回の記事では、片手で料理をするための具体的な方法をご紹介していきます。やり方の工夫と経験で、片手でも料理を十分に楽しむことができると思っています。今回ご紹介する工夫を知って、少しでも料理を「やってみよう!」と思ってもらえれば嬉しいです。
片手でできる料理の工夫①「メニューを工夫する」
片麻痺がある方にとって、難しいのが包丁を使うことです。
包丁で野菜などを切るためには、包丁を使うだけでなく、切るものを押さえておくことが必要だからです。
そこで発想を変えて、包丁を使わないメニューに工夫することで、料理のハードルをグッと下げることができます。
包丁を使わない調理法
例えば、切る代わりに「叩く」調理法があります。
たたききゅうり
きゅうりを清潔なポリ袋に入れて、麺棒などで叩きます。
叩いたきゅうりを、ポン酢や味噌、醤油など好きな調味料で味付けして、出来上がり!バリエーションとして、山芋を叩いてポン酢と鰹節も美味しいですよ。
「ちぎる」
「ちぎる」ことも立派な料理法です。
レタスをちぎって、缶詰のコーンやツナをのせれば立派なサラダの出来上がり。ゆで卵を手でちぎってポロポロにし、サラダにかけると彩りも鮮やかになります。
カット野菜の活用
最近はコンビニなどで、すでにカットしてある野菜も売ってあります。カット野菜は、そもそもカットする手間が省けてしまうスグレモノ。
カットした冷凍ほうれん草やかぼちゃなどは、そのまま味噌汁の具になります。カット野菜でキャベツやもやしなどのミックスもあり、野菜炒めや焼きそばなどすぐに使うことができます。
カット野菜を使うことで、切る工程だけでなく、包装をはがしたり洗ったりする手間も省くことができますよ。
片手でできる料理の工夫②「ちょっとした動作を工夫する」
ここでは、料理の中で必要な動作の工夫をご紹介します。
滑り止めを使う
片麻痺の方が苦戦するのが、物を押さえる動作です。何か動作をする手と物を押さえる手と、両手が必要となるからです。
ここでひと工夫。滑り止めマットを使うことで、固定しやすくすることができます。滑り止めマットはホームセンターなどの他、100均でも売っています。
商品ごとにグリップ力や網目の大きさが違いますので、自分の使い方に合ったものを選びましょう。
物を運ぶ時の工夫
物を持って移動することは、バランス能力が必要となり、片麻痺の方には難しい動作です。時には転倒の原因になることもあります。
しかしちょっと工夫をすることで、危険な動作を減らすことができます。
例えばお米を炊く時には、水をペットボトルに入れて持っていくことで水の入った炊飯釜を持って移動する負担を減らすことができます。無洗米であれば、より簡単ですね。お皿などを運ぶ時は、ワゴンや荷物を運べる歩行器も便利です。
ワゴンや歩行器は荷物を運ぶだけでなく、つかまることが出来るというメリットもあります。
ただし使い方によっては、転倒など危険な場合もありますので、福祉用具業者や訪問のセラピストなどに相談されると良いでしょう。
野菜は事前に洗ってポリ袋などに入れておくとスムーズ
片麻痺の方にとって、意外と難しいのが野菜などの包装を開けることです。テープがはがれなかったり、袋を開けにくかったり、イライラしてしまうことも少なくありません。
野菜は時間がある時などに、事前に洗ってポリ袋などに入れておくと準備がスムーズになります。必要な作業を分散することで、毎回の下準備の負担を減らすことができます。
可能な方は、準備は家族やヘルパーさんにお願いする、というのも良い方法だと思います。
「全てを自分でやらなくては」と思うと、料理も大変なものになってしまいます。うまく人の力も借りながら、料理を楽しむ余裕を持ちたいですね。
料理バサミを使う
野菜や調味料の袋を開けたり、具材を切って包丁代わりにしたり料理バサミはとても便利な道具です。お肉などの簡単なカットは、ハサミでも大丈夫です。
食材に直接触れるので、ハサミは清潔にしておきましょう。
片手での料理がしやすくなる!便利な道具のご紹介
片手では難しいことも、道具によってやりやすくなることがあります。
ここでは、片手で料理をする時に便利な道具をご紹介していきます。
ミニ計量カップ
調味料を測るのは、片手では行いにくい動作です。計量スプーンを固定するのって難しいですよね。そんな時に便利なのが100均で売っている、ミニ計量カップです。
写真のように安定した状態で、調味料を測ることができます。
目盛りも小さじ大さじとともに、50mlまではかれる優れもの。
ただし私が実際に使った感じでは、計量スプーンと比べると多少のアバウトさがありますので、目安程度に使うのがよいと思います。
豆腐まな板
豆腐まな板とは、豆腐を均等な幅で切るための専用のまな板です。私の友人はこれを、刺身を切る時に使っています。
写真では分かりにくいのですが、豆腐まな板の上に普通のまな板を置いて固定しています。魚の身を均等に切ることができるので、刺身が綺麗な仕上がりになります。
仕上がりはこんな感じ。どうですか?美味しそうでしょう。
釘付きまな板
先ほど片手で包丁を使うのは難しいと言いましたが片麻痺の方用のまな板も福祉用具メーカーより市販されています。
出典:アビリティーズ楽天市場店
https://item.rakuten.co.jp/abilities/1000328/
こんな感じで食材を固定することができるので、食材が転がらずに切りやすくなりますね。
釘付きまな板はまな板に釘を打って、自作することもできるのですが錆びない釘を使うなど衛生面の配慮が必要となります。
まとめ
いかがでしたか?
今回の記事では、片手での料理を行いやすくするために、メニューや料理に必要な動作の工夫や料理に役立つ道具をご紹介してきました。
少しでも「やってみたい」と思える工夫があれば嬉しいです。
料理のやり方は人や家庭により、千差万別です。あなたらしい料理の工夫を、ぜひ楽しんで見つけていってください。
mocoss ( 作業療法士 )
2007年に作業療法士免許取得。その後救急病院、リハビリテーション専門病院、行政(介護予防事業)での勤務を経て、在宅の高齢者や障害者への訪問リハビリテーションに従事する。
特に脳卒中患者の在宅復帰を多く支援してきた。ボランティアとして、片麻痺患者がセラピストの教育に携わるためのNPO法人に所属している。
趣味は旅行。