脳梗塞の治療として、カテーテル手術があります。しかし、カテーテル手術とは一体どういうものなのか。
脳に直接カテーテルを入れて本当に大丈夫なのか、など、ご家族の不安が強い治療法であることも事実です。
そこで今回は、脳・神経科の看護師が脳梗塞のカテーテル手術について、特に多くの方が不安に思い、質問されることが多い項目について、解説します。
脳梗塞のカテーテル手術とは、どんな治療なのでしょうか。
脳梗塞は、脳内の血管が血やコレステロールの塊などによって詰まってしまい、十分な血液が行きわたらなくなってしまう病気です。
この血管の詰まりを直接取り除くことで血液の流れを良くする治療、それが脳梗塞のカテーテル手術です。
病院でのカテーテルとは、直径2mm程度の細い管のことをいいます。
この管を太もも付近にある大腿動脈という太い血管から少しずつ、脳内の血管へカテーテルを通していきます。
そして、脳内で血管を詰まらせている血の塊を、直接取り除く、あるいは吸引することで、血管のつまりを解消させます。
この脳梗塞のカテーテル手術は、カテーテルが正しい方向へ向かっているか確認できるよう、レントゲンなどに使われるエックス線を随時当て、正確な位置が把握できるようにして行います。
よって脳梗塞のカテーテル手術は、エックス線を随時当てながらカテーテル検査を行える環境がそろっている病院でのみ行うことができ、全ての病院でこの手術を受けられるというわけではありません。
なぜ同じ脳梗塞なのに、カテーテル手術をするケースとしないケースがあるのでしょうか。
脳梗塞のカテーテル手術が選択される条件として、病院の施設環境の他にもう一つあります。それは脳梗塞を発症して8時間以内である、ということです。
カテーテル手術は、脳内の血管に直径2mmとはいえ、直接管を通すという治療法です。治療には万全を尽くしていますが、カテーテルが正常な血管を傷つけてしまうリスクもないとはいえません。
そのため、脳梗塞のカテーテル手術を行うにあたっては、発症して8時間以内と早い段階であり、「血流を回復させることで症状を大きく改善できることが見込める場合」のみ、適応となります。
ではなぜ、8時間が目安となっているのでしょうか。
脳は、体の中で他のどの臓器よりも一番酸素を必要とします。
そのため、脳塞栓により血液が十分に届かなくなると、脳の機能は著しく低下してしまいます。そして一度低下した脳の機能は、二度と元には戻りません。
8時間というのは、脳の機能を低下させないぎりぎりの時間だからこそ、この時間が設定されている、というわけです。
よく、脳梗塞を発症した後にリハビリを行うことである程度機能を回復させることができていますが、それは脳の機能そのものが回復したわけではなく、その周囲の脳の機能を発達させることで、失った機能を補ってくれるようになるのです。
そのため、脳梗塞を発症したらなるべく早く病院に掛かりましょうというのは、こういった治療を受けられる可能性を少しでも高めるために言われている、ともいえます。
実際にカテーテル手術を受けている患者さんは、どれくらいいらっしゃるのでしょうか。
病院でカテーテル手術を受けることができた患者さんは、多くはないというのが体感としてあります。その理由は、先ほどもお伝えしたように、発症してから8時間以内という点にあります。
発症しても混乱してしまう、あるいは様子を見てしまうことで、すぐに救急車を呼ぶほど大変だと気づかないケースが多くあります。
その「様子見」をしている間にどんどん時間は経過してしまうので、病院についた時にはすでに8時間を過ぎてしまっているのです。
私が過去に担当した患者さんの中には、右手に軽いしびれを感じていたけれど、「疲れているのかな」と思いそのまま就寝。朝起きてみると右手が動かなくなっており、慌てて救急車を呼んだという方もいました。
その方は残念ながら病院に到着した時点ですでに8時間を大幅に上回る時間が経過してしまっていたため、カテーテル手術の適応外であり、その後治療やリハビリを行いましたが、生活に支障が出るほどの麻痺が残ってしまっていました。
このように、症状が出現してから病院に到着するまでの間に時間が多くかかってしまうケースが多いため、実際にカテーテル手術を受けることができた患者さんの割合は、体感的には全体の1割ほどでした。
実際にカテーテル手術を受けると、症状は改善するのでしょうか。
患者さんご自身は大きな改善を感じられないかもしれません。
しかし、カテーテル手術を受けることで後遺症の有無に大きな差が出ていると、看護師として実感しています。
以前、なんとなくしびれる程度の麻痺が出た時点で「何かおかしい」と感じ、ご家族の「様子を見れば?」という言葉を聞かずに自分の判断で救急車を呼んだ患者さんがいらっしゃいました。
検査の結果脳梗塞の初期症状と診断され、カテーテル手術の適応となりました。
すぐにカテーテル手術を受けることができたおかげで、患者さんの自覚していた症状としてはしびれ程度の麻痺であり、その後も麻痺などといった後遺症を起こすこともなく、歩いてお帰りになられました。
その方が脳梗塞を起こした位置は、脳にある血管の中でも比較的大きいところでした。
そのため、病院にいらっしゃった時はしびれ程度の麻痺でしたが、そのまま治療せずに放置していたら、体の半分に重度の麻痺が残ってしまうことが考えられます。
よって患者さんご自身としての実感はあまりないかもしれませんが、脳梗塞のカテーテル手術を受けることで、症状は大きく改善することが期待できます。
カテーテル手術を受ければ、もう脳梗塞になる心配はないのでしょうか。
脳梗塞を発症した後の不安としてよく聞かれるのが、再発しないかどうかということです。再発率は5割を超えていると警告している医師がいるほど、脳梗塞は再発しやすい病気です。
カテーテル手術は、先ほどもご紹介したように脳内の血管に詰まっている血の塊などを直接取り除くという治療なので、一見すると一度こういった治療を受ければ、その後は脳梗塞の心配もないように思ってしまいます。
しかし脳梗塞の場合は、一度でも血管が詰まってしまったということは、今後脳内の他の血管も詰まりやすいということを意味しています。そのため、一度カテーテル手術を受けたからといっても、再び脳梗塞を発症してしまう可能性は高いといわざるを得ません。
よって、脳梗塞を再発させないためにも、普段の食生活やお薬を継続して飲み続けることが大切となります。
色々話を聞いても、やっぱり脳梗塞のカテーテル手術に対して不安がぬぐえません
脳の中に直接カテーテルを通すと聞くと、不安を強く感じるのは当然かと思います。
確かに血管の中に直接カテーテルを入れるということについては、カテーテルが血管を突き破ってしまう可能性はゼロとはいえませんし、治療を行うにあたっては医師の経験と技術が重要であるともいえます。
しかし、私の経験上、カテーテル手術を行うことで得られるメリットは、リスクよりも遥かに大きなものです。
カテーテル手術に限らず、病院におけるどんな治療であっても、様々なリスクは尽きますが、それでもあえて病院がその治療法を選択するのには、そのリスクを超えるメリットが期待できるからです。
今回ご紹介した内容以外にも不安に思う点があれば、どうぞ遠慮なく病院の医師や看護師に直接聞いてください。
直接きいていただければいただくほど、医療者側との信頼関係が生まれ、そして安心して治療を受けることができるようになるはずです。