自分にとって大切な方が脳梗塞を発症して入院した時、多くの方が一度はお見舞いに行かれるかと思います。
実際に脳神経科で勤務していると、多くの方がお見舞いに訪れるのですが、中には「患者さんにとってつらいお見舞い」になってしまっているケースも見受けられます。
そこで今回は、脳神経科の看護師が脳梗塞のお見舞いには何が良いのかについて、解説していきます。
お見舞いの時期・タイミング
脳神経科の看護師である筆者が考える、お見舞いの時期とタイミング。
それは最低でも入院から1週間以上たってからです。
脳梗塞を発症し入院したと聞くと、「気分も落ち込んでいるだろうから、少しでも早くお見舞いに伺いたい」と思われる方が多いかと思います。
そのお気持ちは痛いほどわかるのですが、ここで注意していただきたいのが、脳梗塞という病気の特徴です。
脳梗塞は、再発しやすい病気と言われています。
よって脳梗塞を発症した方は、現段階での状態にショックを受けると同時に、「再発」という恐怖とも常に戦っています。
この2つの感情により、患者さんの多くは相手に対して気を遣う心のゆとりはありません。
そのため、お見舞いに行ったとしても、皆さんが想像するような「喜んでくれる」「自分が行くことで、不安や恐怖が和らぐ」といったことができない可能性が高い状態なのです。
発症から1週間たつと、若干ですが発症後のショックが緩和され、患者さんの表情が和らぐことが多くなる傾向にあります。
そのため、最低でも1週間以上たってからのお見舞いが良いと考えます。
SCU(脳卒中集中ケア病棟)は、原則的に家族の面会のみ
脳梗塞を含む脳卒中は、発症から早ければ早いほど、治療法の選択肢が広がる病気です。
そして、発症直後に比べて、3日程度はより症状が重くなる可能性も高い病気でもあります。
そのため、より状態が改善する治療を行うため、そして症状の進行の程度を見極めるために、病院によっては「SCU」という、脳卒中専門の病棟を設け、集中管理を行っています。
このSCUはICUなど他の集中治療室同様、基本的に面会できるのは家族のみであり、面会時間も厳しく制限されています。
そのため、たとえ1週間以上経過していても、患者さんの容態によってはSCUへ入院している場合は、面会を断れるケースも十分考えられます。
以上の理由から、脳梗塞を発症した方へお見舞いを検討している場合には、
- SCUへ入室していないかどうか
- ご本人が面会できる状態かどうか
を事前にご家族へ確認したうえで検討されることをお勧めします。
病院職員へは問い合わせても回答してもらえません
昔と違い今は入院先の病院へ問い合わせても、看護師などは一切こういった項目についてお答えすることができません。
「不親切だ」「それくらい良いじゃないか」といわれることも多いのですが、すべては患者さんの個人情報保護の観点から行っていることですので、そちらも併せてご了承いただけたらと思います。
障害によるお見舞い
脳梗塞という病気の怖いところが、発症することで様々な障害を負ってしまう可能性が非常に高い、という点です。
そこで、それぞれの障害に応じたお見舞いについて、考えていきます。
脳梗塞が軽度の場合
脳梗塞は脳内の血管が詰まることで発症する病気です。
そのため、血管の詰まった位置がたまたま障害の出にくい部位だった場合は、脳梗塞であっても軽度となります。
しかし、いくら障害が出にくい部位だったとはいえ、脳梗塞を起こしたことに変わりはありません。
そのため、
「障害が残らなくてよかったね」
「軽度だったのだから、まだいいじゃない」
という言葉は、患者さんを傷つける可能性が高いため、避けたほうが無難です。
また、見た目上は麻痺などがないため「症状は軽そうだ」と思えも、脳梗塞には文字が認識しにくくなる、左半分が見えにくいなどの症状が出ている場合もあります。
そのため、たとえ軽度であるとしても、お見舞い前に必ずご家族へどういった症状が出ているのかを確認し、そのことについてはあまり触れないように注意しながら、いつも通りの会話を楽しんでいただければと思います。
半身麻痺の場合
脳梗塞を発症して負う障害の中で、特に重い障害の一つが、半身麻痺です。
半身麻痺の場合、広範囲にわたって脳梗塞が起こっていることを意味しており、再発してしまうと命の危険もあるほど、症状は深刻だといえます。
半身麻痺という重い障害を負った患者さんの場合、強い精神的ショックから、一時的に鬱のような症状がみられることもあります。
そのため、半身麻痺という重度の障害を負ってしまった場合は、患者さんご本人、もしくはご家族より「お見舞いに来てほしい」という申し出がない限りは、お見舞いは避けるべきだと考えます。
半身麻痺の方の場合は、少しでも日常生活をご自身で行えるようにするため、症状が落ち着き次第、リハビリの専門病院または病棟へ転院・転棟されます。
そのため、発症直後ではなく、リハビリ病院・病棟へ転院・転棟されてからお見舞いに行かれるというのも、一つの手段だと考えます。
言語障害の場合など
脳梗塞の難しい部分として、言語障害など見た目にはわからない障害を負っていることがある、ということがあげられます。中でも特に対応に苦慮するのが、言語障害です。
脳梗塞によって引き起こされる言語障害には、大きくわけて以下の2つがあげられます。
- 言葉そのものが出てこない
- 話そのものはできるが、意味のない言葉の羅列となってしまい、意味が通じない
これらの言語障害に共通するのは、
「こちらが何を話しているのかはわかっている」という点です。
そのため、言語障害を負っている方とお見舞いにてお話をする場合は、
「〇〇についてどう思う?」というように、相手に対して発言を求めるのではなく、
「〇〇だと思うんだけど、それであっている?」というように、はい、いいえでこたえられるようなことを尋ねると、比較的スムーズにコミュニケーションを図ることができます。
とはいっても、患者さんも言語障害を負って日が浅いため、
「自分にとって伝えたいことがあるのに、それをうまく伝えることができない」というもどかしさを感じています。
そのため、言語障害がある場合はお見舞い時間を最小限にし、患者さんの負担を軽減する配慮も必要だと考えます。
脳梗塞 お見舞い 手土産は何が良い?
患者さんの脳梗塞の症状が軽度だと、「暇だろう」「おいしいものでも食べて、気分を紛らわせてもらおう」と、雑誌やDVD,果物等をお見舞い品として持ち込まれる方が大変多いのです。
しかし脳梗塞発症後の患者さんの中には、見た目には見えなくても、文字が読みにくい、疲れやすいなどといった症状から、雑誌やDVDを楽しめないことが多く、また再発を防ぐために、食事も塩分やカロリーを制限されている方も多いです。
そのため、お見舞いの定番である雑誌・DVD・食品関係は避けた方が無難です。
では逆に、どういったものが喜ばれるのでしょうか。
実際に身内が脳梗塞で入院した際、私は以下のものを手土産としていました。
- ノンカフェインの飲み物
- テレビカード、QUOカード
- 小型ラジオ
なぜそれを選んだのか、それぞれご紹介します。
ノンカフェインの飲み物
脳梗塞を発症された方の多くは、減塩やカロリーなど、様々な食事制限を受けます。
持ち込みの食事等も禁止されているため、原則として食品は手土産としてふさわしくありません。
一方、飲み物は脱水を防ぐという観点から推奨されていることが多いため、興奮作用があり、飲んでいる薬によっては悪影響を及ぼすカフェインが入っていない飲み物であれば、持ち込んでも構わないケースが多くなっています。
私はコーヒーが大好きな身内のために、ノンカフェインのコーヒー、お湯を入れたポット、コップを持ち込んで、目の前でノンカフェインのコーヒーを淹れて、香りも楽しんでもらっていました。
そのため、ノンカフェインの飲み物はお勧めの手土産品の一つです。
ただし、患者さんによっては水分を飲み込みにくくなってしまい、トロミをつけないと飲み込めないという方もいるため、事前にご家族へ水分の持ち込みは大丈夫か、確認を取るようにしてください。
テレビカード、コンビニで使えるQUOカード
役に立つものを手土産にしたいけれど、制限も多いし、どれにしていいかわからない。
そんな方へお勧めなのが、テレビカード、そして病院内に入っているコンビニの多くで使える、QUOカードです。テレビカードとは、病室でテレビを見るときに使うものであると同時に、病院によっては個別の冷蔵庫やコインランドリーにも使うことができます。そのため、何かとお金を使う入院生活において、テレビカードはすぐに使えて助かるアイテムなんです。
また、最近は病院内にコンビニが入っていることが多いため、コンビニで使えるQUOカードがあると、お財布を持たずに自分の必要なものを購入できるため、大変助かります。テレビカードとQUOカードは千円程度で購入できるので、もらう側の負担も軽減できるというメリットもあります。
小型ラジオ
患者さんの中には、脳梗塞の症状によってテレビ画面を見るのがつらい、またはお金がかかるからと、テレビを見ないという方もいます。しかし、ただベッド上で安静にしているのも退屈です。
そういったとき、活躍するのが小型ラジオです。ラジオならばお金もかからず、また自分の好みに合わせて様々なチャンネルを聞くことができます。筆者の身内は、小型ラジオで週末はよく競馬情報を聞いて楽しんでいました。
以上、お勧めのお見舞いグッズをご紹介しました。
お見舞いに行かれる際の参考にしていただけたら、うれしいです。
この記事を書いた人 山村 真子( 脳神経外科の看護師 )
看護短大を卒業後、大学病院・総合病院へ計10年間勤務。脳神経科には3年間勤務し、様々な脳梗塞患者さんの看護に従事してきた。脳神経科以外にも、循環器科や総合内科など、様々な診療科での経験を積み、今に至る。
現在はこれまでの看護師の経験を生かし、「根拠に基づいた確実な情報を、わかりやすくお伝えする」をモットーに、看護師ライターとして活動している。