脳梗塞は、ある日突然発症するケースがほとんどです。
そのためご本人はもちろんのこと、周囲の方も驚き、そして「なんとか勇気づけよう」とたくさんの方がお見舞いにいらっしゃいます。
しかし、脳梗塞という病気だからこそ、お見舞い時にぜひ注意していただきたい点がいくつかあります。
そこで今回は、脳神経科の看護師が実際に体験した様々な「脳梗塞のお見舞い」を通して、脳梗塞のお見舞い時に注意していただきたい点について、ご紹介したいと思います。
なお、今回ご紹介した3名はいずれも特定を避けるための情報を事前に追加しています。
予めご了承ください。
お見舞いによって気落ちしてしまった、Aさん
Aさんは、まだ30代と若くして脳梗塞を発症されました。
症状は重く、お話しこそできるものの、利き腕を含めた右半身に重い麻痺が残ってしまいました。
そんなAさんを励まそうと、重症部屋から一般病棟へ移られたその日のうちにご友人が3名、来院されました。
Aさんはまだ、ベッドから起き上ることも難しい状況でした。
そのため、Aさんへ「ご面会されますか?」と伺ったところ、「遠くから来てくれたんだ。少しでもよいから会いたい」とのことでした。
医師にも確認し、「15分程度であれば」との許可が出たため、お三方を病室へ案内しました。
お三方は口々に
「思ったよりも元気そうで安心したよ」
「大丈夫だよ。うちの父も脳梗塞で麻痺が残ったけれど、今でも元気に過ごしているよ」
「まだまだ人生長いんだから、もっと楽に考えな」
端からすると、どれもご本人を励ます言葉のように受け取れます。
Aさんもお三方がいらっしゃる間は笑顔で軽く会話を交わされていました。
しかし、です。
お三方が病室を後にされるとすぐ、同じ病室の方からナースコールがありました。
Aさんが大声で泣いているので見てあげてほしい、というのです。
慌ててAさんの元へ駆けつけると、Aさんはそれまで抑えていた感情を爆発させていました。
「俺の気持ちなんか、誰にもわからない」
「なんで俺ばっかり…ちくしょう!!」
Aさんはまだ、脳梗塞を発症されたこと。そして、重い麻痺が出てしまっていることを受け止めきれていませんでした。
そんな中、お見舞いで前向きな言葉をかけられたことで、感情が爆発してしまったようでした。
脳梗塞は、その方の人生を一変させます。
前日までいつも通りの生活を送っていた方が、Aさんのように突然重度の麻痺を追ってしまうケースも、珍しくはありません。
そのため、患者さんの中にはAさんのように自分に起きた症状を受け止めきれず、精神的に落ち込んでしまうケースもよく見られます。
よって脳梗塞を発症された方のお見舞いに行かれる際は、ぜひご本人の負担とならないよう、ご家族などに状態を確認した上で行かれることを、看護師として強くお勧めします。
交友関係の広いBさん。毎日の面会に同室者が激怒!
Bさんは手が握りにくいという違和感を覚えて病院を受診したところ、初期の脳梗塞ということで緊急入院されました。
幸い症状は軽く済み、入院も点滴でこれ以上症状が悪化しないようにするための治療だったため、Bさんは毎日暇を持て余しているような状態でした。
病院側としては、面会時間内であること、そして他の患者さんたちに迷惑がかからない程度であれば、特に面会制限をしてはいませんでした。
そこでBさんはご友人やご家族へ「暇だから顔を見せに来てよ」と連絡したそうで、Bさんのベッド周囲には毎日たくさんのご友人やご家族が面会にいらっしゃっていました。
Bさんが入院していたのは、4人部屋であり、Bさん以外にも3名の方が、入院されていました。
Bさんへお見舞いに来た方々は口々に
「良かったね、麻痺が出なくて。麻痺が出たら大変だったよ」
「脳梗塞と聞いたから、どんなひどい症状が出てるかと思ったよ。でも症状が出ていないようで、安心した」
とBさんへねぎらいの言葉をかけていた、そのときです。
突然同室の患者さんが
「うるさい!お前ら、全員今すぐ出ていけ!」
と怒鳴ってしまいました。
同じ脳梗塞とはいえ、同室の方には麻痺が残っている方、言葉がうまく話せなくなってしまった方など、様々な症状の方が入院されています。
そのため、Bさんに対してかけていたねぎらいの言葉が、同室者の方にとってはとても辛いものになってしまっていたのです。
脳梗塞は人によって現れる症状が違うといっても過言ではありません。
そのため、症状が軽い方のお見舞いへ行かれた場合でも、どうか周囲の患者さんにとって辛くない言葉を選んで、お話ししていただけたらと思います。
「入院は悪いことばかりじゃないね」とつぶやいた、Cさん
Cさんはご自宅で突然脳梗塞を発症、救急車で運ばれてきました。
幸い運ばれたのが早かったため、命に別状はありませんでしたが、今後は車いすでの生活を余儀なくされてしまうことが推測されました。
Cさんが受けた精神的なショックは大きく、看護師が話しかけても反応は乏しく、窓の外をぼんやり眺めていることが多い日が続いていました。
そんな日々の中で、Cさんの表情が和らぐひと時がありました。
それが、ご家族のお見舞いでした。
Cさんには旦那さんと娘さん、息子さんが一人ずついらっしゃいました。
ご家族はみなさんそれぞれお仕事が忙しく、なかなかお見舞いにいらっしゃることができませんでした。
しかし娘さんはなんとか仕事の都合をつけて、たとえ10分ほどと短い時間であっても、毎日お見舞いにいらっしゃっていました。
「お母さん、体に辛いところはない?」
「お母さんが毎日作ってくれていたお弁当がまた食べたいよ。早く帰ってきてね」
娘さんが毎日かける優しい言葉に、Cさんの表情も自然と穏やかになっていました。
そして少しずつ、病院での治療やリハビリに対しても意欲が出てくるようになりました。
お散歩へお連れした際、Cさんは静かにこうおっしゃいました。
「病気になってから、とにかく毎日がすごく不安でした。自分はどうなってしまんだろうって。
でも、娘が少しの時間でも毎日顔を出してくれたのが、本当に嬉しかった。
あの子が毎日顔を出してくれていたから、私も頑張らなくちゃって思えるようになったんです。」
まとめ
脳梗塞の治療は、どの病院でもできるとは限りません。
救急を受け入れられる比較的大きな病院へ搬送されるケースがほとんどとなるため、中にはご自宅から距離のある病院へ運ばれ、そのまま入院となってしまうこともあります。
そのため、中には
「お見舞いに行きたいけれど、なかなか行けない」
「行っても数十分くらいしかいれないから、行ってもいかなくても同じ」
と考えてしまっている方もいらっしゃるかと思います。
しかし、脳梗塞はある日突然発症する故に、患者さんは精神的に大きなショックを受けています。
たとえ数十分でもかまわないので、ぜひご家族は少しでもお見舞いに来ていただけると、ご本人にとってとても心強く、そして精神的な支えとなります。
今回ご紹介したケースは、どの状態も病院ではよく見られるお見舞いのケースです。
身近な方が脳梗塞になられ、お見舞いを検討されている方の参考となれば幸いです。
この記事を書いた人 山村 真子( 脳神経外科の看護師 )
看護短大を卒業後、大学病院・総合病院へ計10年間勤務。脳神経科には3年間勤務し、様々な脳梗塞患者さんの看護に従事してきた。脳神経科以外にも、循環器科や総合内科など、様々な診療科での経験を積み、今に至る。
現在はこれまでの看護師の経験を生かし、「根拠に基づいた確実な情報を、わかりやすくお伝えする」をモットーに、看護師ライターとして活動している。