脳梗塞とは、脳内の血管が血の塊などによって突然塞がってしまうことで発症し、詰まってしまった部位によって様々な症状、および後遺症が出ます。
そのため、脳梗塞の治療には「急性期」「回復期」「維持期」と3つの期間に分かれており、それぞれの期間に適した治療が行われます。
そこで今回は、脳梗塞の治療期間について、解説します。
急性期病院での治療期間は、おおよそ1ヶ月
脳梗塞を発症した時、まず運ばれるのが急性期病院です。
急性期病院とは、いわゆる救急車が患者さんを運ぶような、地域の中でも大きな規模の病院となります。
急性期病院における脳梗塞の治療には、大きく分けて「血管内のつまりを直接取り除く治療」、または「これ以上症状がひどくならないように、または再発しないようにする治療」の2種類があります。それぞれの治療について、詳しく紹介しましょう。
血管内のつまりを直接取り除く治療
脳は常に多くの酸素や栄養を必要としているため、発症後どれだけ早く治療を受けられるかがポイントとなります。
発症後4.5時間以内であれば受けられるのが、血の塊を直接溶かす治療です。この治療は即効性がある一方で、出血しやすくなるという副作用もあるため、確実な効果が期待できる、発症後4.5時間以内しか行うことができません。
4.5時間以上経過している場合でも、8時間以内であれば血管を塞いでいる塊をカテーテルで直接取り除く治療が受けられるケースもあります。
このように、脳梗塞では発症後8時間以内でなければこれらの治療を受けることはできません。
これ以上症状がひどくならないように、または再発しないようにする治療
脳梗塞は、再発率が高い病気として知られています。そのため、発症後8時間以上経過している場合、もしくは上記の治療後は、これ以上症状がひどくならないようにするとともに、再発しないようにするためにするための、薬を中心とした治療が行われます。
手術や放射線、抗がん剤など様々な治療法があるがんとは違い、脳梗塞は基本的に点滴や経口での薬による治療を行います。
血の塊を直接取り除く治療が受けられても、そうでなくても、これ以上症状がひどくならないように、または再発しないように行う治療は必ず行われ、これらの治療は、入院後1ヶ月ほどとなります。よって、急性期病院での治療期間は、おおよそ1ヶ月といえます。
回復期病院・病棟での治療は、数ヶ月から半年が目安
脳梗塞での治療において、急性期での治療と同等かそれ以上に重要となるのが、この回復期での治療です。
回復期での治療とは、リハビリテーションです。
「リハビリは治療ではないのでは?」と思われた方もいらっしゃるかと思います。
脳梗塞は、病気の特徴からリハビリテーションも立派な治療の一つです。
その理由について、詳しくご紹介します。
脳梗塞によって失われた機能は、リハビリによって補うことができる
人間の脳は、部位によって様々な機能を担っています。
脳梗塞によって一部の機能が失われたとしても、リハビリによって正常な周囲の脳機能が活発になり、正常とまではいかなくとも、それを補う機能を習得することが可能となります。
例えば、主婦で右利きの方が脳梗塞によって、右腕に麻痺が出てしまったとします。
リハビリを行うことで、それまで握ることすら難しかった右手でも若干ですが再び握れるようになりました。
それと同時に、麻痺が出ていないですが利き腕ではない左手の使い方を集中的にリハビリすることで、右手が動かない分を補えるようになり、退院時には料理が行えるまでに機能を改善することができました。
このように、脳梗塞によって一度は失われた機能であっても、集中的なリハビリを行うことで機能の改善が見込めるのです。
リハビリは、急性期の治療同様にやればやるほどよくなる、というわけではありません。
脳梗塞の回復期で有効なリハビリは数ヶ月から半年だと過去のデータから解明されているため、長くとも回復期での治療は半年が目安となります。
維持期での治療は、回復期終了後から一生涯
維持期とは、急性期・回復期での治療から得ることができた状況を一日でも長く「維持」するための治療が行われます。
つまり、維持期とは回復期が終わった後すべての期間を指す言葉である、といえます。
がんでも「治療後5年後、または10年後」が再発の目安となるのに対し、なぜ脳梗塞は「維持期」として治療後すべての期間も継続した治療が必要なのでしょうか。それには、脳梗塞ならではの特徴が関係しています。
脳梗塞は、単独で起こす病気ではない
人間の血管は、元々ゴムのように柔らかくなっています。血管そのものが伸縮することで、身体の隅々へ血液が行き渡るようにしています。
一方、血液も身体の様々な機能が連携し、常に流れやすいように調整が施されています。
つまり、脳梗塞を1度でも起こしてしまったということは、それだけ血液または血管が正常ではないことを示しており、それが再発率の高さにも反映されているのです。そのため、脳梗塞を1度でも発症した方は回復期である程度機能を改善させた後も、継続した治療が必要となります。
継続的な通院&投薬は不可欠
では、具体的にどのような治療が続くのでしょうか。
それは、継続的に通院をして血液や血管の状態をチェックすること、そして血液が固まりにくくなるようにする薬や、血圧・血糖をコントロールするお薬を定期的に飲み続ける治療です。
私が以前経験した患者さんの中には、せっかく回復期でのリハビリを頑張ったにもかかわらず、維持期に入ってからは「多少さぼっても平気だろう」と通院をさぼってしまいました。すると、それまで薬で良好にコントロールできていた血圧が急上昇してしまい、脳梗塞よりさらに症状が重くなることの多い脳出血を発症してしまいました。
そしてその方には、リハビリでもカバーできないほどの重い麻痺が残ってしまいました。
このように、自分ではなかなか自覚できないのですが、維持期での通院および投薬は必要不可欠なものなのです。
機能を維持するためのリハビリ
回復期である程度回復した機能は、発症以前とは違い、継続的なリハビリを行わないと衰えてしまいやすいという特徴があります。
実際に筆者の知人でも、脳梗塞にて右半身に麻痺が残ってしまったのですが、リハビリによって自転車にも乗れるほど回復した方がいます。
ジムなどへ行って筋力や機能維持に努めていましたが、ある日当然心臓病を発症してしまったことで、事態は大きく変わってしまいました。
治療のために長期間ベッド上での安静を余儀なくされてしまった結果、自転車に乗れていたほどだった機能が、一人で歩くことも難しいほど衰えてしまったのです。
リハビリは継続することで機能を維持することができるということが、このケースからよくおわかりいただけるかと思います。
症状が重い場合は、回復期を退院するタイミングで介護保険等を申請し、継続したリハビリを受けられるように手配されます。
しかし筆者の知人のように症状が比較的軽く済んだ場合は、つい家でのんびりしてしまい、継続的なリハビリをしなかったがために、気がついたら自分の思い通りに動けなくなってしまったなんてことも十分考えられます。
そのため、機能を維持するためのリハビリはぜひ意識して、継続していただけたらと思います。
まとめ
脳梗塞は、一度発症したら生涯にわたって継続した治療が必要となる病気の一つです。一方で、一度発症することでご自身のこれまでの生活を振り返り、悪かった点を改善することができれば、それからも長く健康に過ごせることは十分可能な病気ともいえます。
実際に筆者がこれまで担当した患者さんの中にも、軽い脳梗塞から退院した後、食事や生活習慣を見直したことで、通院の度に元気な姿を見せてくださっている方がたくさんいらっしゃいます。
ぜひ、「一生続くのか」と悲観的に捉えず、「これ以上悪化させない」と前向きに捉えていただけたらと思います。
この記事を書いた人 山村 真子( 脳神経外科の看護師 )
看護短大を卒業後、大学病院・総合病院へ計10年間勤務。脳神経科には3年間勤務し、様々な脳梗塞患者さんの看護に従事してきた。脳神経科以外にも、循環器科や総合内科など、様々な診療科での経験を積み、今に至る。
現在はこれまでの看護師の経験を生かし、「根拠に基づいた確実な情報を、わかりやすくお伝えする」をモットーに、看護師ライターとして活動している。