大切な家族が脳梗塞になった時。
付き添いをしながら少しでもそばにいて、励ましたり、身の回りのお世話をしてあげたくなります。
しかし、過度の付き添いは病院側にとって歓迎されないだけでなく、脳梗塞を発症したご家族自身の負担にもなりかねません。
そこで今回は、脳神経科の看護師が、脳梗塞の付き添いについて、実体験を元に解説します。
今の病院は、基本的に「泊まり込みの付き添いは禁止」
付き添いには、大きくわけて2種類があります。
それが、「病院に泊まり、24時間つきっきりで行う付き添い」と「面会時間内に行う付き添い」です。
昔はご家族やお手伝いさんが病院に泊まりこみ、24時間つきっきりでお世話をする付き添いも見られました。
しかし現在は、ほとんどの病院が「完全看護」といって、看護師がご家族に代わり、患者さんの看護を行っています。
そのため、今は付き添い=面会時間内に行うもの、というのが基本であり、原則として病院側からお願いする場合を除き、家族の希望で泊まり込みの付き添いは、病院側の許可が必要となります。
病院側から泊まり込みの付き添いをお願いすることも
病院側から泊まり込みの付き添いをお願いするケースは、大きく分けて2つあります。
それは、「患者さんの容態が悪く、いつ何が起こってもおかしくないケース」、そして「環境の変化によって一時的に患者さんの精神状態が悪化してしまい、看護師だけでは安全を確保できないケース」です。
脳梗塞で付き添いを病院側からお願いする場合は、後者が圧倒的に多いです。
特にお年を召した方が脳梗塞を発症した場合、突然病院に運ばれ、治療が開始されるため、劇的な環境の変化に戸惑い、一時的に認知症のような症状が出現してしまうことがよくみられます。
そして、精神的な混乱から点滴やお薬などを拒否、あるいは途中で抜去してしまうことが多く、治療が継続できません。
こうした時、病院側は治療を進めるため、そして患者さんの精神状態を安定させるために、ご家族へ泊まり込みの付き添いをお願いすることがあります。
そのため、もし病院側から泊まり込みの付き添いをお願いされた場合は、こういった事情を考慮した上で、治療のためにぜひご協力いただければと思います。
ICU、SCU入室中は、看護師の指示に従う
脳梗塞の場合、SCUがある病院では一定期間SCUへの入室が原則となるほか、症状が重篤な場合はICUにて集中治療が行われることもあります。
ICUやSCUは一般病棟とは違い、集中治療を行う専門病棟のため、付き添いも時間が制限されます。
病院によって面会時間や時間制限など、細かい規則があるため、ICUかSCUへ入室している場合は、事前に病院スタッフへ確認の上、行うことをおすすめします。
病院側が「歓迎しない付き添い」って?
泊まり込みの付き添いについては基本的に禁止となっていますが、面会時間内に患者さんへ付き添っていただく分には、病院側としても特に制限は行っていません。
一方で、同じ付き添いでも、中には病院側が「歓迎しない付き添い」というのも存在しています。
そこで、直接ご家族へ伝えられませんが、病院側からみて困る付き添いのケースを2つ、ご紹介します。
看護師に確認しないまま、飲食をすすめてしまう
脳梗塞で入院されている場合、塩分やカロリーなど、食事内容に制限がある方や、飲み込む力が落ちてしまっているために、食事時には細心の注意を払わなくてはいけない方がいます。
しかし、付き添いのご家族の中には看護師に確認しないまま、好物や好きな飲み物を持ち込み、食事の時間以外に食べたり、飲んだりしてしまうケースがあります。
なぜ、こうしたことが歓迎されないのでしょうか。
それは、治療の妨げになることが考えられること、そして誤嚥によって肺炎を起こしてしまう可能性があるからです。
食事制限がある場合は、病院内の治療食と薬でどれだけ正常な値に近づけるかどうか、医師が日々お薬や食事内容を調整しているケースがあります。
また、飲み込みに問題がある場合は、無理に飲み込もうとすることで肺炎を起こしてしまい、最悪命に関わる自体を引き起こしてしまう可能性があるのです。
よって、付き添いをする場合、飲食については勝手に行わず、必ず事前に看護師へ確認するようにしてください。
患者さんを無断で動かしてしまう
患者さんの中には、脳梗塞によって麻痺やしびれが起こり、自由に動けなくなってしまう方もいます。
患者さんはご家族がいらっしゃることで、「看護師さんを呼ぶのはしのびないから、ちょっと手伝って」と付き添っているご家族へ移動のお手伝いをお願いすることがあるのですが、専門的な知識が無い状態で麻痺やしびれのある方の移動介助をすることは、大変危険な行為です。
赤ちゃんの場合は、自分よりも身長・体重ともに小さいため、動かすことは容易です。
しかし、自分と同じかそれ以上の身長・体重の方の移動をお手伝いする場合、きちんとポイントを押さえて行わないと、ご自身の身体に負担がくる恐れがあるほか、患者さんがバランスを崩して転倒し、骨折や打撲など、新たな疾病を生み出してしまう可能性があるのです。
そのため、もし脳梗塞を起こした患者さんが付き添いのご家族へ移動のお手伝いをお願いしても、必ず看護師を呼び、家族だけで行っていいのかを確認するようにしてください。
ご家族が過度に介助してしまう
脳梗塞で大切な家族が入院しているとき、家族としてついなんでもしてあげたくなってしまうお気持ちは、とてもよくわかります。
しかし、患者さんご本人ができることはなるべくご自身でやっていただくということもまた、回復のためには大切な行程であり、過度にご家族がやってしまうことで、かえって回復が遅れてしまう可能性もあります。
以前、軽度の脳梗塞でご主人が入院された際、移動時にはご自身で歩けるにもかかわらず、奥様が過度に心配し、必ず病棟内は車椅子で移動されていました。
看護師やリハビリ専門職が「少しでも歩いて、ハビリしたほうがいいですよ」とお伝えしていたのですが、奥様は「また倒れたら大変だから」とかたくなに車椅子を使われていました。
その結果、旦那さんは本来ご自身で歩けたにもかかわらず、退院時には歩行時にふらつきが見られるようになってしまい、最終的には車椅子なしではお出かけするのも困難な状況になってしまいました。
このように、病院側が進めている以上の介助を行ってしまうことは、かえってご本人の回復を妨げてしまうどころか、かえって悪化させてしまう可能性があります。
よって、付き添いを行う際は「過度な介助になっていないかどうか」を常に確認していただけたらと思います。
付き添いは、患者さんにとって治したいというエネルギーになり得る!
看護師として日々たくさんの患者さんやそのご家族と接していると、様々な家族の形が見えてきます。
脳梗塞は、再発率がとても高い病気であり、一度発症してしまうと、再発しないための継続した自宅療養が必須となります。
今後の長い人生を健康に過ごしていただくためにも、ぜひ入院中の付き添い時には「やってあげたいという自分本位な付き添いにならないこと」を念頭において、付き添っていただけたらと思います。
付き添いがある患者さんと、付き添いがない患者さんでは、目に見えて回復過程に差があります。
毎日付き添いがある方は、ご自身の「治したい」という思いがより強くなるためか、リハビリにも積極的に取り組まれる傾向にあります。
一方、付き添いがほとんどない方は「もう人生は終わりだ」と悲観的に考えられることが多く、リハビリも満足に行えず、そのまま転院となってしまうことが多いように感じています。
ぜひ、脳梗塞を発症されたご家族のために、「患者さんにとって最適な付き添い」をしていただけたら、と思います。
まとめ
付き添いについて、よく「看護師さんがいるのだから、必要ないのでは?」と聞かれることがあります。
確かに看護師は患者さんにとって一番近い存在であり、患者さんを看護するのが、看護師の役割でもあります。
しかし、どんなに優秀な看護師であっても、ご家族の付き添いにはかないません。
ご家族が脳梗塞で入院された場合、ぜひ無理のない範囲で患者さんに付き添っていただけたらと思います。
それが患者さんにとって、頑張るエネルギーになるはずです。
この記事を書いた人 山村 真子( 脳神経外科の看護師 )
看護短大を卒業後、大学病院・総合病院へ計10年間勤務。脳神経科には3年間勤務し、様々な脳梗塞患者さんの看護に従事してきた。脳神経科以外にも、循環器科や総合内科など、様々な診療科での経験を積み、今に至る。
現在はこれまでの看護師の経験を生かし、「根拠に基づいた確実な情報を、わかりやすくお伝えする」をモットーに、看護師ライターとして活動している。