誰だって、入院生活は嫌なものです。
退院時、「もう二度と来ないから!」と笑顔で言う方もいますし、中には「やっとシャバに出られる」と表現される方もいます。
しかし、脳梗塞は一度発症してしまったら、どんなに軽症であったとしても、退院後は定期的な通院が必要な病気です。
今回は、脳梗塞で退院後の通院についてご紹介します。
脳梗塞の退院後の通院は、どんなに短くても数ヶ月は続く
脳梗塞は、様々な要因が重なることで発症します。そのため、脳梗塞の退院後での通院では、「様々な要因そのものの治療」および「脳梗塞の再発予防」の2つの目的があります。
このどちらも長期間にわたるコントロールが必要となるため、退院後の通院は短くても数ヶ月、長ければ数年と長期にわたると考えていただくとよいでしょう。
中にはこれから先ずっと定期的な通院が必要な場合もあります。
ここからは「2つのケースから退院後の通院について解説します。
症状が比較的軽く、急性期病院からそのまま退院できた場合
脳梗塞の中には、詰まってしまった部位がたまたま症状の出現しにくい場所だったということもあります。そうした場合は、回復期でのリハビリは受けず、そのまま自宅へ退院することができます。
退院後行われる治療内容は、主に以下の内容です。
脳梗塞を起こすきっかけとなった持病の治療
脳梗塞は、健康状態が良好ならばまず発症することはありません。
そのため、たとえ症状が軽かったとしても、今回の脳梗塞をきっかけに、脳梗塞を起こすきっかけとなった持病が見つかるというケースは多くなっています。
その持病とは、高血圧や糖尿病といった、いわゆる「生活習慣病」です。
これらは、喫煙や大量飲酒、肥満や運動習慣といった生活習慣が深く関係しており、一度見つかると生涯にわたるコントロールが必要となります。
高血圧はお薬を飲むことである程度コントロールできますが、糖尿病は薬以外にも食事や運動など、これまでの生活習慣を大きく変える必要があります。これらの持病をコントロールするためには、定期的に通院し、適切なお薬の処方および生活習慣の指導を受けることが大切です。
血液の状態をコントロール
脳梗塞は、血の塊が脳内の血管に詰まってしまうことで発症します。
そのため、血液を固まりにくくするお薬を定期的に飲み、再び血の塊ができないようにコントロールする必要があります。
このコントロールは持病のコントロールとは違い、一定期間飲み続けることであとは血液の検査だけで大丈夫になる場合もあります。
このように、どちらも「継続的なコントロール」が重要なので、通院を自己中断せず、先生の指示に従ってどんなに忙しくても継続することが大切です。
このケースでの通院頻度としては、退院直後はおおよそ2週間に一度程度、退院後半年ほどすぎれば1ヶ月に1回程度となります。
麻痺などの後遺症が残り、回復期病院でリハビリ後に退院した場合
回復期病院でリハビリを受けた後に退院した場合、症状が比較的軽く済んだケースとは以下の点で通院の違いがあります。
後遺症によって通院方法を考える必要がある
回復期病院でリハビリを受けたということは、後遺症があるということを意味しています。そのため、退院後の通院においても一人での通院が難しいケースが多くなります。
例えば、一人暮らしでこれまでは自転車で近隣の医院へ通っていたけれど、退院後は麻痺が残っており、自転車が乗れないということもあります。この場合は、タクシー等自動車での移動を検討しなくてはいけません。
このように、後遺症の度合いに応じた通院方法について、考える必要があります。
通院に介助が必要なことも
また、通院方法以外にも検討しなくてはいけないことがあります。それが、通院や病院へ到着後に介助してもらう必要がある、ということです。
入院中は、常に看護師や看護助手が介助を行いますが、退院後はすぐにそういった人がサポートできるとは限りません。
病院内では遠慮なく周囲にいる職員へ介助を依頼してもかまわないのですが、職員が通院中すべての行動についてサポートすることは難しいのが現状です。そのため、家族や介護士などに介助をお願いする必要がでてきます。
しかし家族も仕事などそれぞれの用事から、サポートしたくてもできない場合があるため、こういった事情を踏まえた上で、通院時は誰にサポートしてもらうか検討することも必要です。
日々のリハビリなど、ご自身も実は忙しい
回復期病院を退院後は、周囲のサポートを受けながらの生活となりますが、実は退院後、ご本人もかなり忙しい日々を送ります。
なぜ忙しいのか。それは、日々のリハビリを行うためです。
リハビリは、回復期で終わりではなく、それを維持するためのリハビリを続けなくてはいけません。
そのため、それまでは特に予定をいれずに日々を過ごしていた方も、退院後は週に数回のリハビリデイサービスを受けるなど、毎日何らかの予定が入ることで、通院日の設定が意外と難しくなります。
実際に筆者の知人は、脳梗塞と心臓病を発症後、現在は自宅にて療養生活を送っているのですが、今は週に3回デイサービス、1回整体、1回マッサージと平日はすべて何らかの予定が入っています。それに2週間に1度の通院も加わるので、家族とのスケジュール調整がかなり大変だとよく言っています。
このように、退院後の通院についてはぜひ「ご自身も忙しい」ということも承知していただけたらと思います。
すべては「再発を防ぐため」
脳梗塞を発症して退院した後、通院について辛い、面倒くさいと感じられる方も多いかと思います。しかし、これらはすべて脳梗塞の再発を防ぐために行われているものです。
どれだけ退院後の通院が大切かを示すデータを2つ、ご紹介しましょう。
1.脳梗塞発症は、認知症に次ぐ「介護が必要となる原因」
脳梗塞は、様々な後遺症をもたらす怖い病気です。
その後遺症によって、介護が必要となる方も多く、介護が必要となる原因は認知症に次いで第2位となっています。
脳梗塞は再発しやすい病気といわれており、たとえ症状が軽かったとしても再発時はより重い症状が出てしまう可能性は決して低いとはいえません。
2.脳梗塞は、寝たきり原因第1位
介護が必要となる状態のうち、一番家族にとっても辛いのが寝たきり状態です。
脳梗塞の患者数は2014年で約118万人と多く、寝たきりの原因第1位となっています。
このように、脳梗塞はたとえ一度目は軽症であったとしても、再発によって寝たきり、または介護が必要になる可能性はとても高く、怖い病気といえます。
そのため、ぜひ再発を防ぐためにも医師の指示通りの通院をしていただけたらと思います。
まとめ
通院は、面倒なものであるとともに「また悪くなっていたらどうしよう」という不安が常につきまとうものです。そのため、極力避けたいと考えている方が多いのも事実です。
今回ご紹介した内容をぜひ把握していただき、「脳梗塞の退院後の通院は再発予防のために欠かすことができない、大切なものだ」ということをぜひご理解いただけたらと思います。すべては、再発させないために。ぜひこれからも、定期的な通院をしていただけたら幸いです。
この記事を書いた人 山村 真子( 脳神経外科の看護師 )
看護短大を卒業後、大学病院・総合病院へ計10年間勤務。脳神経科には3年間勤務し、様々な脳梗塞患者さんの看護に従事してきた。脳神経科以外にも、循環器科や総合内科など、様々な診療科での経験を積み、今に至る。
現在はこれまでの看護師の経験を生かし、「根拠に基づいた確実な情報を、わかりやすくお伝えする」をモットーに、看護師ライターとして活動している。